ただ、それだけでよかったんです
【ネタバレ注意】
【ネタバレ注意】でお願いします。
「クズのままで幸せになってやろう。人間力テストが最下位だろうが、常にヘラヘラ笑ってみせよう。発展途上国には上から目線でせっせと募金をするし、怒られることが嫌で姑息に誰にも迷惑かけず、イジメの同調圧力の中では間抜けに空気を読まず、不幸を望まれようと幸福に、全世界から刑務所行きを望まれようとも罪を犯さず、楽しそうに生きてみせよう」
確かにこれは衝撃作。
イジメという難しいテーマを選んでいることもあり、作者が描きたいものを描いたというのがわかる。世間の流行なぞなんのその。だが、その内容は人間力テストによる数値化という周囲の目を殊更に気にしたもの。最初のページから最後の方まで上手く情報が伏せられてて、だんだんとその構造が明らかになっていくから、グイグイと読ませる力がある。尖りまくってるけど大好きな作品です。
本編の最初のページ、こういうページのど真ん中に短文が載っている形式、たまらなく好きです。なんというか、この世界にスッと入り込めるような気がして。
内容が内容だけに、よく大賞にしたなと思いますが、それでも抜群の筆力によって引き込まれて、それでいて考えさせられる。まあ、まだ他の受賞作を読んでないので軽々しく言えませんがね!
自殺前と自殺後とが、入り交じって描かれているんですが、そこまで混乱することなく読めたのは構成、情報の出し方が上手かったからかなーと思います。はじめは男子生徒Kが自殺したというところから始まり、その姉が自殺の真相を解明しようと動き出しますが、それと同時に自殺前の出来事として「遺書」により悪魔と呼称された主人公・菅原拓の学校生活を描いていきます。男子生徒Kはなんでもできる天才少年として、菅原くんは友達もいないヒトリボッチで勉強もダメ運動もダメなクラス最底辺の存在として描かれており、対比構造となっていて、読んでいくと菅原くんの方に感情移入していくことになりました。その内面は少々というか結構、歪んでいるんですが、人並みに恋もするし、冒頭にあった悪魔という印象からは外れたものだというのが読んでいくうちにわかってきますし。そして、それがわかるからこそ、なぜこんなことが起こったのか、その過程が気になりのめり込んでいくわけで。
で、その真相。断片的な情報から朧げに見えていた全体像が当事者である菅原くんの口から語られることによって浮き彫りになっていく。この関係性がひっくり返るのはいいね。大好きです。
この巻でまとまってるので、次回作は完全新作となるんでしょうねー。この作家さんならではの作品が読みたいので、また「尖った」作品をお願いしたいです。